日本高齢者虐待防止センター電話相談

2008年8月18日月曜日

日本高齢者虐待防止センター ニューズレターNo.1

☆担当者からのごあいさつ

みなさん、こんにちは。残暑お見舞い申し上げます。

この暑さと湿気に負けずに、防止センターではニューズレターを発行することにいたしました。会員とこのメーリングリストにご参加のみなさまにメールでお届けいたします。


とりあえず、今年度は、3~4回発行する予定です。

いろいろな方との情報交換、意見交換ができればよいと考えています。ぜひ、感想やコメントをこのメーリングリストにお送りください。

今年度は、防止センターの副田あけみが編集を担当します。よろしくお願いします。


No1のコンテンツは以下のとおりです

★「ヘルプラインだより」(浅井正行)

★☆<施設虐待ニュース>

★☆★「高齢者虐待と法律専門職」(弁護士 橋場隆志)

★☆★☆<介護殺人ニュース>

★☆★☆★「日本高齢者虐待防止学会千葉大会報告」(小川孔美)



★「ヘルプラインだより」  浅井正行

みなさん、こんにちは。専門電話相談員の浅井正行です。当センターのニュースレター創刊にあたりまして、高齢者虐待ヘルプラインの現状をお話したいと思います。

7月5日に行われました日本高齢者虐待防止学会において、過去1年間の相談件数と内容について発表させていただきましたが、2007年度は総合件数214件のうち、虐待相談が163件でした。特徴としましては、相談者の74%が女性、被虐待者の64.15%が女性、そして虐待者の55.56%が男性(女性は28.57%;男女共が15.87%)となっております。

ここから見えてくる特徴の一つは、母親を同居の息子(40~50代、無職もしくはパートタイム、独身もしくは離婚、精神的な疾患あり)が虐待し、別居の娘が相談電話をかけてくるといったパターンです。母親(被虐待者)と息子(虐待者)と娘(相談者)の三角構造という興味深い分析結果が得られました。

また、具体的な事例としましては、虐待者本人からの電話相談が増えてきています。現在進行中のケースでは、いつの間にか母親が役所に一時保護され、突然役所に呼び出された娘(相談者)が対応に出てきた複数の職員から犯人扱いされ、全く話を聞いてもらえなかったというものがあります。相談者本人は、介護疲れから母親をどなったりしたことを認め、反省し、一からやり直したいという気持ちでしたが、役所の職員には通じませんでした。

この相談者からは何度も電話をもらっているのですが、その都度、われわれ電話相談員は、相談者の話にしっかりと耳を傾けて(傾聴)、役所からの連絡を辛抱強く待つ本人の姿勢等に賛辞とねぎらいの言葉をかけ続けました。その結果、相談者本人は現状を着実に受け入れて、本人自身が意識を変えようと努力し始めてきました。ここに、当センターのカウンセリング的役割の重要性を認識した次第です。

防止法には、養護者支援も謳われています。今後、自治体や地域包括支援センターに求められてくるものは、虐待を行ってしまった(または、行ってしまいそうな)養護者への支援ではないかと思います。介護ストレスでバーンアウト寸前の家族介護者がたくさんいます。24時間介護の中で、暴言の1つや、ちょっと手をたたくといったことが、不本意ながら出てしまうこともあるかも知れません。もしもそれを、虐待だと声高に言われてしまったら、なんともやりきれないといったことが多々あるかと思います。実際にそうした相談もあります。

介護者の話をじっくりと聴いてあげることによってストレスを少しでも緩和してもらえるようなカウンセラーの役割を担うことや、虐待者のサポートグループを作って対応するなど、養護者に目を向けて、根本から虐待を防止していくといった方針が今後自治体に求められてくるのではないでしょうか。



★☆ 傷害:入所女性を暴行 容疑で介護士の男逮捕--仙台南署 /宮城
毎日新聞 2008年8月9日 地方版



★☆★「高齢者虐待と法律専門職」2008.08.15    弁護士 橋場隆志

「平成18年度 高齢者虐待防止法に基づく対応状況等に関する調査結果(暫定版)」によれば、高齢者虐待に関する相談・通報総数18,393件のうち、立入調査による事実確認を行なった事例257件(1.4%)、やむをえない事由等による措置により分離を行なった事例490件(分離事例のうちのうち13.7%)、成年後見制度利用の事例217件が報告されている。

「立入調査」「措置」「成年後見」は、高齢者虐待において最も端的に法律の解釈や適用が問題となる事項である。報告された事例の数倍の事例が検討の対象になったものと推察されるが、ここでは法律(高齢者虐待防止法、老人福祉法、民法等)の解釈や適用が適切迅速に行なわれなければならず、そのためには法律専門職(弁護士、司法書士等)の関与が不可欠である。

高齢者虐待防止法の運用面では、各市町村が「関係専門機関介入ネットワーク」を構築し、このネットワークの中に法律専門職を取り込み、綿密な連携を図ることが期待されている。

とはいえ、同じ法律専門職であっても高齢者虐待に対応できる者の数は極めて限られているばかりでなく、高齢者虐待案件の担当希望者は多いとは言えない。仮に各市町村がいっせいに高齢者虐待の専門弁護士等を求めても実は充分に需要に応えられない。他方、各市町村としては、まず「早期発見見守りネットワーク」や「保健医療福祉介入支援サービスネットワーク」を構築することが優先課題であり、財政的裏づけや経験の有無の問題もあって、市町村によっては「関係専門機関介入ネットワーク」にまで手が回らないという実情がある。その結果今のところ高齢者虐待に関する法律専門職は消極的な形で需給関係のバランスが保たれている。

介護保険財政そのものが逼迫している現状では、各市町村における高齢者虐待に対する今後の対応が気になるところである。


★☆★☆★第5回日本高齢者虐待防止学会千葉大会のご報告(小川孔美)


平成20年7月5日(土)、第5回日本高齢者虐待防止学会千葉大会(大会会長多々良紀夫:淑徳大学総合福祉学部教授)が(財)海外職業訓練協会(OVTA)会場にて行われた。

本高齢者虐待防止センター会員からは、

1.副田あけみ「高齢者虐待防止ネットワーク構築支援の形成的評価研究」

2.梶川義人「高齢者虐待防止研修参加者の自己効力感の向上に関する研究Ⅰ」

3.山田祐子「都道府県職員に対する高齢者の権利擁護および虐待対応能力向上に関する調査研究」

4.浅井正行「電話相談から見えた高齢者虐待の現状Ⅳ-2007年度の相談件数とその分析」

5.小川孔美「24時間虐待防止電話相談事業における形成的評価研究―プログラムのためのニーズアセスメント再評価からー」(名前は各発表代表者)

の5つの演題が発表された。


本大会は、2006年4月から施行された「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」が3年目となり、法改正に向けて、現在考えられる本法の課題を明確にしながら、多角的な検討を主軸に進められた。

「高齢者虐待」の問題は、目の前の「虐待」の事実を明らかにし、「虐待」がこれ以上起きないようにという取組みが当然のことながら大切であるが、それ以上にこの問題は、「構造的な問題」であり、行政対応においても、専門職としても、個人の意識としてもあらゆる角度からの捉え直しが必要であることを再認識した場となった。

施設や複雑な家庭環境のなかで行われる「不適切なケア」とは何かについての共通理解が進んでいない現実、発見されにくい性質をもつ高齢者虐待の「早期発見」を促進していく上においての「通報義務」「通報システム」上の課題、虐待予防システムの必要性など、人権を守るという視点に今一度立ち返り丁寧に議論することの重要性が示唆された。